無事に気管挿管し、そのあとバッグ換気を行って、次に人工呼吸器に繋ぐことにしました。
皆さんが手でバッグを押して感じた固さや柔らかさは、人工呼吸器に繋いでしまうともう意味が無くなるのでしょうか?いいえ、決してそんなことはありません。人工呼吸器というのは、皆さんが手でバッグを押す代わりをしてくれる”Mechanical student”なのでしたよね。バッグを押して固いと感じるときには、人工呼吸器に繋いでも空気を送り込みにくくなるはずです。しかし一旦人工呼吸器に繋いでしまうと、「固い」かどうかは直感的に感じることができなくなってしまいます。そこで人工呼吸器的に考えてみます。人工呼吸器は「固い」とは感じません。陽圧呼吸を専門とする人工呼吸器の立場で考えると、「気道に空気を通して肺をふくらませるのに必要な陽圧が上昇する」という風になります。したがって前回話したような気道抵抗が上昇する(例:気管支喘息、細い気管チューブ)か、コンプライアンスが低下する(例:ARDS)か、またはその両方が起こると、人工呼吸器で換気をするのにより高い圧が必要になります。どれだけ高い圧が必要かは人工呼吸器上でモニターすることが可能です。
たとえば一定の1回換気量を一定の速度(吸気流速)で与える場合を考えてみましょう。ARDSのようにコンプライアンスが低くなれば(風船のゴムが厚くなる)、同じ量の空気を入れるのに必要な陽圧は上がりますね。
気道抵抗が上昇した場合はどうでしょうか?抵抗を持った管に空気を通す時には圧較差が必要になります。どこかで出てきた話ですね。そう、この人です。
ゲオルク・オーム |
圧較差=流速 × 気道抵抗
なので、流速が同じであれば、気道抵抗が上昇することにより必要な圧較差が上昇します。したがって同じ1回換気量を送り込むのに必要な圧が上昇することになります。
なので、流速が同じであれば、気道抵抗が上昇することにより必要な圧較差が上昇します。したがって同じ1回換気量を送り込むのに必要な圧が上昇することになります。
第1回ワークショップ講義資料より |
コンプライアンス、気道抵抗が変化すると必要な陽圧が変化することが分かりました。それでは必要な陽圧が高くなっているときにそれがコンプライアンスの低下によるものなのか、気道抵抗の上昇によるものかを区別することはできるのでしょうか?それがわかれば患者さんの病態が主に肺胞にあるのか気道にあるのかがわかって便利な気がしますね。実は可能なのです。そのためにはピーク圧(最高気道内圧)とプラトー圧の違いを知らなければなりませんが、その話はまた次の機会にします。
今回は1回換気量を決めたときに圧をモニターするという話をしましたが、人工呼吸器では逆にどれだけの陽圧をかけるかあらかじめ決めておくことも可能です。その場合は決めた圧でどれだけの1回換気量が入るかをモニターすることになります。1回換気量を設定して圧をモニターする方法を従量式、圧を設定して1回換気量をモニターする方法を従圧式と呼びます。
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