左:フローボリューム曲線、右:時間ー気流曲線 |
ここで一番の手がかりになるのはフローボリューム曲線です。残念ながら他院で行われた呼吸機能検査なので、吸気の部分がなく強制呼気のフローのみとなっています。呼吸機能検査を見慣れていない人に簡単に説明すると、フローボリューム曲線では横軸の上側が呼気、下側が吸気になります。強制呼気ではStarling's registerという仕組みにより流速に制限がかかるため、患者の努力に左右されない曲線になるのですが、このあたりの詳細は割愛します。簡単に言うと、正常では山型になって、この症例のように平らにはなりません。
フローボリューム曲線が平らになるときに考えるのは上気道閉塞です。ここでいう上気道とは口・鼻に始まって気管下部までを含みます。胸腔外に閉塞がある場合は、吸気時に胸腔内の陰圧により気道内の圧が外より低くなるため閉塞がより顕著になります。したがってフローボリューム曲線の下側すなわち吸気が平らになります(上図A)。
胸腔内に閉塞がある場合は、胸腔外の場合とは逆に吸気時には胸腔内の陰圧で胸腔内気道は広がり閉塞の程度は軽くなりますが、強制呼気時には胸腔内陽圧により気道外圧が内圧より高くなるため閉塞がより顕著になります。したがってフローボリューム曲線の上側すなわち呼気が平らになります(上図B)。
そんな理屈はややこしすぎるという人は、フローボリューム曲線が上向きにとがっているは上を指しているので胸腔外、下向きにとがっているときは下を指しているので胸腔内と覚えると忘れにくいでしょう。
閉塞が固定して呼気・吸気の圧変動に左右されなくなると、呼気も吸気も平らになります(上図C)。この患者さんの場合は、吸気のフローボリューム曲線があればこのタイプだったと思います。
上気道閉塞が疑われる場合にまず行う検査は(軟性)気管支鏡です。この患者さんは下の写真のように声門下に気管狭窄がありました。気管挿管や外傷などが原因となりますが、この方には
気管支鏡所見 |
今回は比較的すぐに紹介されてきたので早期に診断・治療できましたが、上気道閉塞の患者さんには長らく気管支喘息として治療される方もいます。上気道閉塞は腫瘍によるものでなければ多くの場合治癒可能ですので見逃さないようにしたいものです。
今回は呼吸器内科的な症例でした。教訓は"All that wheezes is not asthma."(ゼーゼーするからと言って喘息とは限らない)です。
皆様の施設で呼吸に関する興味深い症例があれば是非ご紹介下さい。症例以外にも、臨床上のコツや各施設での呼吸ケアへの取り組みなどの情報を共有していただければありがたいです。respiratory.blog@gmail.com までご連絡下さい。
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