2011年2月25日金曜日

[呼吸器話] 人工呼吸器って何をしてくれるの? 陰圧呼吸と陽圧呼吸

Iron lungのような陰圧呼吸器は気管チューブを必要としないため人工呼吸関連肺炎(VAP)を起こさないというメリットがあります。しかし、清拭や体位交換といった看護や、ラインを取ったりと行った処置をしにくい(できない)というデメリットがあります。前回の写真にあったように装置が大きいため、検査や手術のために移動させることも困難です(そもそも陰圧呼吸器をつけたままCTを撮ったり、手術することもできません)。

そのため今日使われるのは気管挿管または気管切開を用いた陽圧呼吸です。自発呼吸を含めた陰圧呼吸では、胸腔内圧を下げることによって圧較差を作って肺内に空気を流入させるのに対して、陽圧呼吸では外気圧を肺内よりも高くすることで圧較差を作って吸気を起こさせます。Iron Lungと比べるとはるかに小さく、移動も容易です。


Puritan Bennett TM(提供:コヴィディエンジャパン株式会社)

陰圧呼吸と陽圧呼吸を比べたのが下の図です。いずれの型の人工呼吸でも助けるのは吸気だけで、呼気は伸展した肺・胸郭が縮むことで受動的に行われます。人工呼吸器が空気を吸い取ってくれるわけではありません。

陰圧呼吸・陽圧呼吸の仕組み(ワークショップ講義資料より)

まとめ

  • 人工呼吸器は肺と外気の間に圧較差を作ることで吸気を助ける。
  • 陽圧呼吸(現在使用している人工呼吸)では、外気を陽圧にすることで圧較差を作る。
  • 陽圧呼吸のモード・設定は、どのタイミングで陽圧をかけるのか、どれだけ陽圧をかけるのか、どのようなパターンで陽圧をかけるのかを決める(詳しくはまた後ほど)。
  • 呼気は受動的に行われ、人工呼吸器が助けるわけではない。

次回以降はさらに陽圧呼吸について述べますが、まずは人工呼吸を考える上で有用な肺モデルについて説明します。

2011年2月18日金曜日

[呼吸器話] 人工呼吸器って何をしてくれるの? 自発呼吸・陰圧呼吸


前回クイズの答えです。
ゲオルク・オーム(wikipediaより)

この人はオームの法則でおなじみのゲオルク・オームさんです。右手または左手の指を思い出した方、それはフレミングの法則で別物です。
フレミングの左手の法則(wikipediaより)今回の話とは関係ありません

おそらく皆さんはオームの法則を
電圧=電流×電気抵抗
と覚えておられると思いますが、この法則は電気以外にも当てはまり、生理学でもよく使われています。スワン・ガンツカテーテルで血管抵抗を計算するのもオームの法則を使うのでしたよね。生理学で使う場合は
圧較差=流速×抵抗 (ΔP= I x R)
とします。

前置きが長くなりましたが、オームの法則から分かるように、流れを作るには圧較差が必要になります。呼吸に当てはめると、気道という抵抗のある管に空気を通すためには、肺内外で圧較差を作る必要があります。私たちが普段行っている自発呼吸の場合
呼吸筋収縮→胸腔拡大→胸腔内陰圧→胸腔内への空気の流入
と言うメカニズムで吸気をしています。下の写真のような理科の実験がありましたよね。ゴムの部分が横隔膜(呼吸筋)に相当し、胸腔容積を拡大することで胸腔内を陰圧にして吸気を行います。

TAKA先生の『中学校理科の授業記録』から「観察12 肺と2つの呼吸」

前回紹介したIron Lungはこの自発呼吸の延長と考えられます。患者さんがたとえばポリオなどで呼吸筋を動かせず、自分で胸腔内を陰圧にできないのを補うために、この大きな呼吸器内を陰圧にしてそれによって胸腔内を陰圧にします。圧較差を作らなければならないので、気道の開口部(口、鼻)は呼吸器の外になければなりません(体全部に陰圧をかけても圧較差はできませんよね)。

現代版Iron Lung (wikipediaより)

次回はいよいよ現在使っている呼吸器の話に入ります。

2011年2月11日金曜日

[呼吸器話] 人工呼吸器って何をしてくれるの? 呼吸器の歴史


前回は気管チューブの話を主にしました。今回からは「人工呼吸器は何をしてくれるのか?」について話します。

Wikipediaより

上の写真は1950年代にポリオの患者さんが人工呼吸器で治療されている様子です。ポリオというのは脊髄の前角細胞を傷害して麻痺を起こすのでしたね。呼吸筋麻痺が起こると呼吸不全になり人工呼吸を行わなければ生存できなくなります。

Wikipediaより

この人工呼吸器の写真を見て、「ああ、昔の人工呼吸器は大きかったのだな。今は技術が発達してすっかり小さくなったもんだ。」と思ってはいけません。今でも同じ仕組みの人工呼吸器を作れば同じくらいの大きさになります。ちなみにこの人工呼吸器はIron Lung(鉄の肺)と呼ばれています。

それではIron Lungはどのような仕組みで動いていて、現在の人工呼吸器とはどこが異なるのでしょうか。答えはこの方が知っていそうです。聞けば(おそらく)誰でも名前を知っていそうなこの方が誰か分かりますか?

"Who am I?"

2011年2月6日日曜日

人工呼吸=気管挿管? 番外編

 前回の投稿で「気道管理の話はまた別の機会に」と言いましたが、ちょうどその直後にこんな患者さんがいましたので紹介します。

 50代男性が、閉塞型睡眠時無呼吸症候群の治療のための口蓋垂口蓋咽頭形成術(UPPP)、舌縮小、舌骨つり上げ術を受けた後に術後回復室で呼吸困難を訴えました。身体所見では明らかな舌の腫脹があります。意識レベルは低下しています。マスク酸素8L投与下で酸素飽和度は98%です。

 この患者さんにまずするべきことは何でしょうか?そう、気道確保です。酸素飽和度98%で安心してはいけません。上気道閉塞で酸素化が明らかに障害されるのは呼吸停止直前になってからです。上気道閉塞でまず障害されるのは換気で、血液ガスを採ればPCO2の上昇が見られますが、ほとんどの場合診断は明らかなので必須ではありません。むしろ血液ガスを測るために治療を遅らせてはいけません。

 さて気道確保が必要なことは分かったのですが、通常通りの迅速導入気管挿管(Rapid sequence intubation: RSI)で良いでしょうか?睡眠時無呼吸症候群があることからも解剖学的に挿管困難であることが推測されますが、今回はそれに加えて舌腫脹による上気道閉塞があります。このような症例では絶対に何の策もないまま筋弛緩をして気管挿管に臨んではいけません。CICO(can’t intubate, can’t oxygenate: 挿管もできず、バッグマスク換気もできない状態)になる可能性が非常に高いです。外科的気道確保も視野に入れて、次の手を考えておく必要があります。

 今回の症例では、執刀医である耳鼻科医がベッドサイドで輪状甲状間膜切開の準備をして待っている状態で、グライドスコープを使って気管挿管をしました。筋弛緩はせず、鎮静剤のみの使用です。挿管した後の呼吸状態は良好で、数時間後には呼吸器設定はCPAPのみとなりました。典型的な、人工呼吸器でなく気管チューブが必要だった症例です。

 気道閉塞は一刻を争う緊急事態です。気道確保するまではいかなることがあっても患者さんから目を離してはいけません。CT室に送ったりすることはもってのほかです。気管挿管直前まで患者さんを横にしてもいけません。

 気道閉塞はあっという間に死に至る状態であるため、今回はやたらと「べからず」の多い文章になってしまいました。次回からはまた人工呼吸器の話に戻ります。

2011年2月4日金曜日

[呼吸器話] 人工呼吸=気管挿管?

人工呼吸と聞くとまず気管挿管を思い浮かべる方がいるのではないでしょうか?挿管は身につけるべき重要な手技であり、若手医師の皆さんの中には「おれっち、かなり挿管上手になってきたよな」とにんまりしている方もいるかもしれません(どんなに上手になってもDifficult airwayには必ず遭遇します。気道管理では常に第2,第3の方法を考えておかなければならないのですが、この話はまた別の機会に)。

では「人工呼吸=気管挿管」なのでしょうか?重症肺炎や心不全、ARDS(急性呼吸促迫症候群)の患者さんには呼吸を助けるために人工呼吸器を装着して陽圧呼吸を行う必要があるかも知れません。一方で、薬物中毒や頭部外傷による意識障害、急性喉頭蓋炎やアナフィラキシーによる上気道閉塞などの病態では、気道を確保するための気管チューブが重要であって、必ずしも人工呼吸器による呼吸補助を目的としているわけではありません。高齢者の重症肺炎で見るように、意識障害があって、喀痰を自分で排泄できず、かつ陽圧呼吸も必要といったような気管チューブも人工呼吸器も両方必要な場合も当然あります。

一口に挿管・人工呼吸と言っても、気管挿管が必要な場合と、人工呼吸器が必要な場合(またはその両方)を区別して考える必要があります。このことは呼吸器離脱・抜管の時にも当てはまり、人工呼吸が必要でなくなっても気管チューブが必要かどうか(抜管できるかどうか)は別に判断します。気管挿管の適応は以下の3点です。抜管できるかどうかの基準はその逆と考えます。

気管挿管の適応
  • 気道保護
  • 上気道閉塞の解除
  • 分泌物の除

人工呼吸が必要であっても、気管挿管が必要ない場合(気道を保護でき、上気道閉塞がなく、分泌物を除去できる)、気管挿管せずに行う非侵襲的陽圧換気(NPPV)を使うこともできます。

今回のまとめとしては、
気管チューブと人工呼吸器を分けて考える
ようにして下さい。そうすれば挿管するかどうかが血液ガスの値で決まらないことも自ずと分かるでしょう。

「人工呼吸器は何をしてくれるのか?」について次回は話したいと思います。

2011年2月3日木曜日

お知らせ 呼吸器話の連載始めます

 第2回若手医師のための人工呼吸器ワークショップの申し込みメールに、「呼吸器についてももっと勉強したい!」と熱いメッセージを書いて下さった方々、誠にありがとうございます。残念ながら定員に入らなかった方々、大変申し訳ありません。


 このブログで呼吸器に関する四方山話を連載していきます。きっぱりと不定期です。役に立つ内容だと思ったら職場の人とも共有して下さい。建設的なご意見/ご感想は歓迎します。