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2011年2月6日日曜日

人工呼吸=気管挿管? 番外編

 前回の投稿で「気道管理の話はまた別の機会に」と言いましたが、ちょうどその直後にこんな患者さんがいましたので紹介します。

 50代男性が、閉塞型睡眠時無呼吸症候群の治療のための口蓋垂口蓋咽頭形成術(UPPP)、舌縮小、舌骨つり上げ術を受けた後に術後回復室で呼吸困難を訴えました。身体所見では明らかな舌の腫脹があります。意識レベルは低下しています。マスク酸素8L投与下で酸素飽和度は98%です。

 この患者さんにまずするべきことは何でしょうか?そう、気道確保です。酸素飽和度98%で安心してはいけません。上気道閉塞で酸素化が明らかに障害されるのは呼吸停止直前になってからです。上気道閉塞でまず障害されるのは換気で、血液ガスを採ればPCO2の上昇が見られますが、ほとんどの場合診断は明らかなので必須ではありません。むしろ血液ガスを測るために治療を遅らせてはいけません。

 さて気道確保が必要なことは分かったのですが、通常通りの迅速導入気管挿管(Rapid sequence intubation: RSI)で良いでしょうか?睡眠時無呼吸症候群があることからも解剖学的に挿管困難であることが推測されますが、今回はそれに加えて舌腫脹による上気道閉塞があります。このような症例では絶対に何の策もないまま筋弛緩をして気管挿管に臨んではいけません。CICO(can’t intubate, can’t oxygenate: 挿管もできず、バッグマスク換気もできない状態)になる可能性が非常に高いです。外科的気道確保も視野に入れて、次の手を考えておく必要があります。

 今回の症例では、執刀医である耳鼻科医がベッドサイドで輪状甲状間膜切開の準備をして待っている状態で、グライドスコープを使って気管挿管をしました。筋弛緩はせず、鎮静剤のみの使用です。挿管した後の呼吸状態は良好で、数時間後には呼吸器設定はCPAPのみとなりました。典型的な、人工呼吸器でなく気管チューブが必要だった症例です。

 気道閉塞は一刻を争う緊急事態です。気道確保するまではいかなることがあっても患者さんから目を離してはいけません。CT室に送ったりすることはもってのほかです。気管挿管直前まで患者さんを横にしてもいけません。

 気道閉塞はあっという間に死に至る状態であるため、今回はやたらと「べからず」の多い文章になってしまいました。次回からはまた人工呼吸器の話に戻ります。

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