図らずも自らが気管挿管・全身麻酔を受けるという機会があったため久しぶりの更新です。
今回は人工呼吸管理中の呼気について話します。以前も一度触れましたが、呼気は吸気で膨らんだ肺と胸郭の弾性によって行われます。この動作は患者さんが努力して息を吐こうとしていない限り受動的で、人工呼吸器で直接的に調節できるわけではありません。「どうせ調節できないのなら、くどくど話してもしょうがないじゃないか」と考えるかも知れませんが、調節できないからこそ逆にしっかりモニターする必要があります。人工呼吸管理中の患者さんが息を十分に吐けないと、エアトラッピングAir trappingという重大な問題が起こります。直接的に調節できないと言いましたが、実は間接的に調節する技はあります。詳しくは閉塞性肺疾患の呼吸管理の話のときに説明します。
さてここで肺気腫の肺と肺線維症の肺を考えてみましょう。肺は風船に例えられるのでしたね。どちらの肺が薄いゴムの膨らみやすい風船で、どちらが厚いゴムの膨らみにくい風船でしょうか?
左は肺気腫、右は肺線維症の胸部X線写真 |
いかにも肺線維症の肺の方が膨らみにくそうに見えますが、その通りです。肺気腫の肺の方がゴムが薄い(コンプライアンスの高い)風船で、肺線維症の方はゴムの厚い(コンプライアンスの低い)風船です。コンプライアンスが高く膨らみやすい風船は、ゴムが薄いので縮みにくくなります。コンプライアンスが低い場合は逆で、肺線維症の肺は膨らみにくく縮みやすくなっています。同じだけの空気が肺に入っている場合、縮みやすい(コンプライアンスの低い)肺線維症の肺の方が早く息を吐き終わります。コンプライアンスが低下する典型的な例であるARDSの人工呼吸管理では設定呼吸回数を35回にまで上げることがあります。このような高い呼吸回数(短い呼吸時間)でも息を吐ききれるのはコンプライアンスが著しく低いためです。
次に喘息重積発作の患者さんと、健康な患者さんを比べてみましょう。喘息重積発作では気管支攣縮のため気道が細くなっています。これは細いストローに例えられます。細いストローと普通の太さのストローを通じて同じ圧で同じ量の息を吐くと、どちらの方がより時間がかかるでしょうか?空気の流れにくい(気道抵抗の高い)細いストローの方が息を吐くのにより時間がかかりますね。
気道抵抗、コンプライアンスと呼気時間の関係をまとめると次の表のようになります。
気道抵抗とコンプライアンスを組み合わせたのが時定数という概念で、呼気にどれだけ時間がかかるかの目安になります。知っているとちょっと通っぽく見えます。時定数が高いと呼気に時間がかかり、低いと呼気時間は短縮します。
時定数=コンプライアンス×気道抵抗
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